患者数・発症年齢
乾癬患者さんの14~15%が乾癬性関節炎
乾癬性関節炎は、乾癬の皮膚症状に加えて、手や足の関節の痛み、腫れなどがあらわれる病気ですが、すべての乾癬患者さんであらわれるわけではありません。これまでは、乾癬性関節炎の患者数は乾癬患者さんの数パーセントにすぎないと考えられていましたが、最近の調査により、日本では乾癬患者さんの14~15%が乾癬性関節炎であると報告されています[1][2]。男女比は1.9:1で、男性のほうが女性よりも約2倍多いという研究結果もあります[3]。
なお、乾癬患者さんに限らず、一般の人も含めた人口あたりの患者さんの割合については、日本ではまだほとんど報告されていませんが、海外では0.02~0.42%と報告されています[4][5]。
Ohara Y, et al.:J Rheumatol. 2015;42(8):1439-1442.、
Yamamoto T, et al.:J Dermatol. 2017;44(6):e121.より作成
Yamamoto T, et al.:J Dermatol. 2016;43(10):1193-1196.より作成
乾癬性関節炎の発症年齢
Yamamoto T, et al.:J Dermatol. 2016;43(10):1193-1196.
関節症状と皮膚症状の発現
Yamamoto T, et al.:J Dermatol. 2016;43(10):1193-1196.より作成
皮膚症状の範囲が広い人、爪病変がある人は乾癬性関節炎になりやすい
乾癬患者さんのなかでもどのような人が乾癬性関節炎になりやすいのでしょうか。その点についてはまだ十分にわかっていません。乾癬の皮膚症状の範囲が広い人ほど、肥満の程度が強い人ほど、また、乾癬にかかっている期間が長い人ほど、乾癬性関節炎を発症しやすい傾向があります[6]。
また、爪の乾癬症状が、乾癬性関節炎と関連する可能性があるといわれており、日本で行われた調査によると、乾癬性関節炎と診断された患者さんの67.6%に爪症状がみられています[7]。
皮膚症状の範囲が広い患者さんや爪に症状のある患者さんは、ときどき関節の腫れやこわばりをチェックすると乾癬性関節炎の早期発見に役立ちます。
症状
関節やその周囲の炎症症状として、末梢関節炎、脊椎炎、指趾炎、付着部炎などがあらわれる
乾癬性関節炎では、乾癬の皮膚症状の他に、末梢関節炎(まっしょうかんせつえん)、脊椎炎(せきついえん)、指趾炎(ししえん)、付着部炎(ふちゃくぶえん)など関節や関節周囲のさまざまな部位に炎症の症状(痛み、腫れなど)がみられます[8]。
患者さんによってこれらの症状があらわれる時期は異なり、多くの患者さんで皮膚症状の後にみられますが、同時であったり、先にあらわれたりすることもあります[3]。また、皮膚症状があらわれた後すぐに関節症状が出る場合もありますが、何年も経ってからあらわれる場合もあるため、皮膚症状と関節の痛みが同じ病気によるものだと気づかない患者さんもいます。
- 手や足の関節に痛み、腫れがあらわれます。最もあらわれやすいのが指の第1関節(指先に一番近い関節)です。
- 関節リウマチとは異なり、はじめは左右非対称に症状があらわれますが、症状が進み、関節炎の箇所が増えると、左右対称にあらわれるようになります。
- 治療せずにそのままにしておくと、関節が変形し、普段の生活の動作にも支障をきたすようになってしまうことがあります。
- 背中や首などの関節に炎症が起きることによって、背中や腰、首に痛み、こわばりがあらわれます。
- 進行すると背骨の骨と骨がくっついて固まってしまい、上を向いたり、前かがみになったりする動作が難しくなってしまうことがあります。
- “ただの腰痛”と見逃されてしまうことも多いのですが、乾癬性関節炎の腰や背中の痛みは、安静にしていると症状が悪化するが運動すると改善する、朝起きてしばらく動けないが動くと痛みが少なくなる、夜中に痛みで目が覚めるなどといった特徴があります。
- 手足の指全体に腫れがみられ、その見た目から“ソーセージ指”ともいわれます。
- 足の指、特に第3趾(中指)と第4趾(薬指)によくあらわれますが、手の指にもあらわれます。足の指の症状は痛風と間違われることがあります。
- 靭帯(じんたい)や腱が骨にくっついている部分のことを付着部といい、この部分に炎症が起こります。
- 負担がかかりやすいアキレス腱や足裏の腱の付着部で炎症が起こりやすく、朝起きて足をついたときのかかとの痛みや、歩行時のかかとの痛みなどとしてあらわれます。
- その他にひざ、骨盤の周りなども含め、からだのどの部分でも生じます。
原因
原因はまだわかっていないが、からだの免疫システム異常が関係
乾癬性関節炎の原因は、乾癬と同じようにまだはっきりとわかっておらず、遺伝的な要因と感染症、ストレスなどの環境・生活要因が関与していると考えられています[9]。
これらの要因が複雑に関わりあって、からだの中の免疫システムに異常が起こり、関節症状が引き起こされます。
病態
炎症性サイトカインが過剰に作られることにより、骨の破壊や新たな形成が引き起こされる
免疫システムの異常により、なぜ、関節症状が引き起こされるのでしょうか。これには「炎症性サイトカイン」という物質が深く関わっていると考えられています。サイトカインは免疫機能の調節や炎症などに関わるたんぱく質で、そのなかでも炎症を引き起こすものが炎症性サイトカインです。
からだの中の免疫システムに異常が起こると、炎症性サイトカインが過剰に作られ、付着部の炎症に続き、骨の破壊、骨の新たな形成が引き起こされます。炎症性サイトカインには多くの種類がありますが、さまざまな研究によりインターロイキン(IL)-17、22、23、TNF-α(ティーエヌエフアルファ)という炎症性サイトカインが乾癬性関節炎の病態において重要な役割を担っていることがわかっています[11]。
乾癬性関節炎は、靭帯や腱が骨にくっついている部分である“付着部”の炎症から始まる
乾癬性関節炎の関節症状は、靭帯や腱が骨にくっついている部分である“付着部”に炎症が起こることから始まります[9]。付着部で過剰な炎症性サイトカインが作られ、炎症が生じるのです。手足などのいろいろな関節に症状がみられることから関節リウマチと間違われやすい乾癬性関節炎ですが、関節リウマチの炎症は関節の内側を覆う薄い膜である“滑膜(かつまく)”という部位で起こっています[9]。これが乾癬性関節炎と関節リウマチの大きく異なるところで、この炎症部位の違いは超音波検査やMRI検査で見分けることができ、診断のときにも役立ちます。
また、爪の病変は乾癬性関節炎の患者さんでよくみられる症状ですが、これは指の第1関節(指先に一番近い関節)付近に付着部炎が起こり、その炎症が爪にも広がったために生じると考えられています[9]。
付着部炎と滑膜炎
Schett G, et al.:Nat Rev Rheumatol. 2017;13(12):731-741.より改変
付着部炎にとどまらず、進行すると骨の破壊や新たな形成が生じる
乾癬性関節炎の付着部から始まった炎症は徐々に広がり、滑膜や軟骨部分にもおよびます。そして進行すると、関節の周囲で骨の破壊や、骨の新たな形成が起こるようになります。骨の破壊や新たな形成により、関節が変形したり、関節の動きに制限が生じたりするため、日常生活にも支障をきたすようになります。
進行のはやさは患者さんによって異なりますが、症状があらわれ始めてから受診までの期間が6ヵ月よりも遅れると、骨の破壊が起こるリスクが4倍以上になるという報告があります[12]。いったん変形してしまった関節は治療を行っても元に戻らない場合もありますので、関節が痛いなど何か変化を感じたら、早めに受診して適切な治療を受けることが大切です。
検査
乾癬性関節炎では、症状、血液検査、画像検査の結果を総合的に評価
乾癬性関節炎は症状が多様で、そのうえ患者さんによって症状のあらわれかたが異なります。また、特定の血液検査や画像検査の結果によって判断することが難しく、症状、血液検査、画像検査などいろいろな検査を行い、これらの結果を総合的に評価します。関節リウマチ、変形性関節症、強直性脊椎炎など似たような症状があらわれる病気も多く、こうした総合的な評価がとても大切です。
診察時に次のようなことを確認します。
- 乾癬の皮疹が、現在ある、あるいは以前にあったか
- 家族に乾癬の人がいるか
- 爪に症状があるか
- 関節の痛み・腫れ・こわばりはあるか
- 付着部炎はみられるか(アキレス腱などの付着部を押して確認)
- 指趾炎はみられるか(足の指は靴下を脱いで確認)
- 背中や腰の痛みはあるか(背中や腰の痛みがある場合は、夜中に痛みで目が覚めるか、安静にしていると悪化し、運動すると改善するかを確認)
- 他に病気があるか
<⾚⾎球沈降速度、CRP、MMP-3>
⾚⾎球沈降速度は⾎液中の⾚⾎球が沈んでいくはやさをみる検査で、からだの中に炎症があると、⾚⾎球沈降速度がはやくなったりします。CRPは関節の炎症の程度を、MMP-3は軟骨の破壊の程度をあらわします。CRP、MMP-3は関節の炎症や骨の破壊にともなって上昇しますが、早期の乾癬性関節炎では上昇しにくいという点に注意が必要です。また、すべての患者さんで上昇するわけではなく、CRPは45%の患者さんで、MMP-3は30%の患者さんで上昇が認められています。
画像検査[9]
主にX線検査、超音波検査、MRI検査が行われます。
<X線検査>
X線検査は最もよく用いられている画像検査です。X線検査では骨の破壊、骨の新たな形成、関節の変形などがわかります。早い段階での関節の変化などはわからないため、早期診断には不向きです。
<超音波検査>
付着部炎や関節炎を調べるのに適しており、患者さんの身体的負担を少なく検査ができるというメリットもあります。ただし、超音波検査で脊椎の病態を調べることは難しいとされています。
<MRI検査>
付着部炎、関節周囲炎、脊椎の炎症など、骨や関節が破壊したり変形したりする前の炎症の程度を知ることができます。早期診断に役立つ検査ですが、複数回の撮影が必要だったり、他の検査よりも費用がかかります。
合併症
メタボリックシンドロームに関連する高血圧、高脂血症、糖尿病を合併しやすい
乾癬と同様に乾癬性関節炎でも糖尿病、高血圧、心血管疾患、ぶどう膜炎などを合併しやすいことが知られています。日本の乾癬性関節炎患者さんを対象とした調査によると、最も合併率が高かったのは高血圧で21.2%、続いて高脂血症16.0%、糖尿病11.2%、肥満11.2%、高尿酸血症・痛風6.0%、脳血管障害2.6%、動脈硬化症・心筋梗塞1.5%などでした[15]。このように乾癬性関節炎の患者さんはメタボリックシンドローム※に関連した病気になりやすいという特徴があります。
※メタボリックシンドローム:
内臓肥満に、高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさることにより、心臓病や脳卒中になりやすい状態のこと。
肥満による内臓脂肪の蓄積によって、
糖尿病、高血圧、脂質異常症が発症しやすくなる
乾癬性関節炎の患者さんがメタボリックシンドロームに関連する病気になりやすいのは、肥満の患者さんが多いことも原因の一つと考えられています。肥満により内臓脂肪が蓄積すると、中性脂肪の増加、善玉コレステロールであるHDLコレステロールの減少、脂質と糖質をコントロールしているアディポサイトカインという物質の分泌異常をまねき、メタボリックシンドロームに関連する糖尿病、高血圧、脂質異常症が発症しやすくなります。
また、肥満の乾癬性関節炎患者さんでは、カロリー制限によるダイエットによって治療効果が高まることが期待されるため[9]、普段から適正体重をこころがけるようにしてください。
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Ohara Y, et al.:J Rheumatol. 2015;42(8):1439-1442.
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Yamamoto T, et al.:J Dermatol. 2017;44(6):e121.
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Yamamoto T, et al.:J Dermatol. 2016;43(10):1193-1196.
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Li R, et al.:Rheumatology(Oxford). 2012;51(4):721-729.
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Liu JT, et al.:World J Orthop. 2014;5(4):537-543.
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Ogdie A, et al.:Rheumatology(Oxford). 2013;52(3):568-575.
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Zenke Y, et al.:J Am Acad Dermatol. 2017;77(5):863-867.
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古江増隆総編集:ここまでわかった乾癬の病態と治療. Ⅱ症状・診断・鑑別診断, 東京, 2012, 中山書店, pp.99-107.
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日本皮膚科学会乾癬性関節炎診療ガイドライン作成委員会 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 乾癬性関節炎研究班:日皮会誌. 2019;129(13):2675-2733.
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岸本暢将ほか:日内会誌. 2014;103(10):2431-2439.
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門野夕峰:The Bone. 2017;31(2):187-192.
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Haroon M, et al.:Ann Rheum Dis. 2015;74(6):1045-1050.
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Taylor W, et al.:Arthritis Rheum. 2006;54(8):2665-2673.
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公益財団法人日本リウマチ財団ホームページリウマチ情報センター(http://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/index.html)
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山本俊幸ほか:日皮会誌. 2018;128(13):2835-2841.
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日本眼科医会ホームページ:目についての健康情報-ぶどう膜炎 なぜ? どうしたらいいの(https://www.gankaikai.or.jp/health/59/index.html)