患者数・発症年齢
膿疱性乾癬(汎発型)の患者さんは少なく、乾癬全体の2.3%
膿疱性乾癬は、赤くなった皮膚の上にたくさんの膿疱(膿[うみ]が入った水ぶくれのようなもの)があらわれるタイプの乾癬で、膿疱が全身にあらわれる「汎発型(はんぱつがた)」と、手や足などの体の一部にあらわれる「限局型(げんきょくがた)」に分けられます。ここでは主に膿疱性乾癬(汎発型)(以下、「膿疱性乾癬」とします)についてご紹介します。
乾癬のなかで患者さんが最も多いのが尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)で約9割を占めます。それに対して膿疱性乾癬の患者さんは少なく、日本乾癬学会の調査によれば、乾癬全体の2.3%と報告されています[1]。
Ito T, et al.:J Dermatol. 2018;45(3):293-301.より作成
指定難病とは?
膿疱性乾癬は厚生労働省の指定難病の一つとされていますが、そもそも指定難病って何? と疑問を持たれる方もいると思います。
難病とは、①原因不明で、②治療方法が確立しておらず、③まれな病気で、④長期療養が必要なものです[3]。難病のうち、医療費助成の対象に指定されたものを指定難病といいます。指定難病は、難病の①~④の要件の他に、さらに、患者数が少なく(人口の0.1%程度以下)、きちんとした診断基準があるものです[3]。
つまり指定難病は、診断が確定されるものの、治療が難しく、長期にわたるため患者さんの負担が大きい病気といえます。患者さんの負担を減らし、適切な治療を継続できるようにするために医療費助成の対象となっているのです。
2021年9月時点で、333の病気が指定難病の対象となっています。
症状
発熱などを伴い、赤くなった皮膚の上にたくさんの膿疱があらわれる膿疱性乾癬[2]
患者数の少ない膿疱性乾癬ですが、よくみられる尋常性乾癬とは異なり、炎症が強く、皮膚だけではなく全身にも症状がみられます。膿疱性乾癬は乾癬のなかでも症状の重いタイプといわれています。
症状のあらわれ方は、最初に皮膚が焼けるような痛みを感じ、全身の皮膚が赤くなり、この時に多くの患者さんで高熱が出ます。その他に体のだるさやむくみ、関節の痛みがあらわれることもあります。
その後、赤くなった皮膚の上にたくさんの膿疱ができます。膿疱同士がくっつき、さらに大きな膿疱ができることもあります。こうした膿疱性乾癬の症状があらわれる前に、尋常性乾癬の皮疹がみられる場合と、みられない場合があります[4]。
膿疱性乾癬の症状
いったん良くなっても、再発することが多い
適切な治療を行うと、皮膚の赤みは徐々におさまり、膿疱も破れ、次第に良くなっていきます。膿疱が良くなった後、そのまま正常な皮膚に戻る場合や、尋常性乾癬の皮疹に変化する場合など、経過はそれぞれです。
ただ、いったん症状が良くなっても、膿疱が繰り返しあらわれることが多いのがこの病気の特徴です。再発のタイミングは患者さんによって異なりますが、感染症、薬剤の服用、妊娠などをきっかけに再発することがあります。再発を抑えるためには、根気良く治療を続けることが大切です。
膿疱は無菌性で、他の人にはうつらない
皮膚に膿が入った水ぶくれのようなものができると、他の人にうつるのではと心配される方もいるかもしれませんが、膿疱性乾癬は他の人にうつりません。膿疱は細菌感染などによって生じた膿が溜まったものではなく、血液中の白血球が集まったもので無菌性です[2]。
原因
一部の患者さんでは発症に遺伝的な素因が関係
発症原因はまだ解明されていませんが、最近、一部の患者さんでは遺伝的な素因が関係していることがわかってきました。
尋常性乾癬が先に発症しない患者さんの多くは、炎症を抑える物質を作る遺伝子(IL36RN [あいえる36あーるえぬ]遺伝子)に異常があり、炎症を抑える物質を作れないことが明らかになっています[2][4]。また、尋常性乾癬が先に発症する患者さんの一部では、炎症を引き起こす遺伝子(CARD14 [かーど14]遺伝子)に異常があり、炎症を引き起こす働きが高まることが明らかになっています[2][4]。
これらの遺伝的な素因に、感染症、薬剤の服用、妊娠などの環境要因をきっかけとして膿疱性乾癬が発症すると考えられています。なかでものどや鼻の感染症がきっかけとなることが多いようです[5]。
ただし、すべての膿疱性乾癬患者さんにこれらの遺伝子異常が認められるわけではなく、まだ知られていない遺伝的な素因や、その他の要因も発症に関係していると考えられています。
病態
IL36RN 遺伝子異常がある患者さんでは、炎症を抑える物質が作られず、
持続的な炎症が引き起こされる
膿疱性乾癬患者さんの皮膚ではどのようなことが起こっているのか、まずは炎症を抑える物質を作る遺伝子(IL36RN 遺伝子)に異常がある患者さんの皮膚の状態を説明します。
膿疱性乾癬の皮膚では、何らかのきっかけにより、正常な皮膚ではあまりみられない炎症を引き起こす物質と炎症を抑える物質がたくさん分泌されています。ところが、IL36RN 遺伝子に異常がある患者さんでは、炎症を引き起こす物質がたくさんあるのに対し、炎症を抑える物質が作られないため、過剰な炎症が起こり、その状態が続きます[4][5]。この過剰な炎症により白血球が皮膚に呼び寄せられて、膿疱が形成されると考えられています。
CARD14 遺伝子に異常がある患者さんでは、炎症を促す物質の働きが高まり、
炎症が引き起こされやすい
一方、CARD14 遺伝子に異常がある膿疱性乾癬患者さんの皮膚では、炎症を促す物質の働きが高まり、正常な皮膚よりも炎症が引き起こされやすくなっていると考えられています[4]。
この10年間で明らかになったIL36RN 遺伝子異常
膿疱性乾癬の原因は長い間、不明でしたが、最近になり遺伝子異常が大きく関わっていることが明らかになりつつあります。重要な遺伝子の一つ、IL36RN 遺伝子の異常が膿疱性乾癬に関係していることが明らかになったのは2011年以降のことです[6]。
その後さまざまな研究が進められ、膿疱性乾癬のなかでも尋常性乾癬を先に発症しない患者さんでIL36RN 遺伝子異常が多いことが明らかとなり、日本人の尋常性乾癬を先に発症しない患者さんでは80%以上にIL36RN 遺伝子異常が認められたという報告もあります[7]。
膿疱性乾癬は重症化するとまれに命に関わることもあるので、遺伝子異常を明らかにすることで、早く正確な診断や、適切な治療につながることが期待されます。また、IL36RN 遺伝子異常がある方が、抗生剤の服用など発症のきっかけとなる要因を避けるようにするためにも役立つと考えられます。
遺伝子検査は一部の研究機関で行われています。
検査
皮膚・全身症状の観察、皮膚生検を行うことでより確実な診断を
膿疱性乾癬の診断では、皮膚症状と全身症状をみることが最も重要になります。皮膚症状が繰り返しあらわれる点も診断の有力な手掛かりです。こうした症状の観察に加えて、皮膚生検を行うことでより確実な診断につながります。
また、血液検査は、診断の決め手にはなりませんが、炎症の程度や合併症の有無を確認するための大切な検査です。
皮膚症状の観察[2][8]
皮膚症状は次のことを確認します。
- 全身あるいは広い範囲に皮疹があらわれているか
- 赤みをおびた皮膚の上に、たくさんの膿疱がみられるか
- 膿疱はいったんよくなっても、何度も繰り返しあらわれるか
全身症状の観察[2][8]
全身症状は次のことを確認します。
- 発熱、体のだるさがあるか
- 全身のむくみ、関節の痛みがあるか
- 眼の炎症がみられるか
病理組織検査(皮膚生検)[8]
- 皮膚の一部をとって顕微鏡で調べると、皮膚組織の特徴的な変化がみられます。
血液検査[8]
- 白血球数、CRP(C反応性たんぱく)、血清アルブミン、血中カルシウムなどを測定します。
- 白血球数やCRPは炎症の程度をあらわします。膿疱性乾癬は全身に炎症が生じることもあるので、白血球数やCRPで炎症がどの程度起きているのかを評価します。炎症が強くなるほど白血球数が増加し、CRP値が上昇します。
- 血清アルブミンや血中カルシウムで腎障害などの合併症の有無を評価します。
合併症
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Ito T, et al.:J Dermatol. 2018;45(3):293-301.
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難病情報センターホームページ:膿疱性乾癬(汎発型)(指定難病37)(https://www.nanbyou.or.jp/entry/168[2022年9月現在])より改変
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難病情報センターホームページ:2015年から始まった新たな難病対策(https://www.nanbyou.or.jp/entry/4141[2022年9月現在])より改変
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杉浦一充:日皮会誌. 2019;129(6):1311-1315.
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杉浦一充:日薬理誌. 2015;146(5):252-255.
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Marrakchi S, et al.:N Engl J Med. 2011;365(7):620-628.
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Sugiura K, et al.:J Invest Dermatol. 2013;133(11):2514-2521.
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日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会, 膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成協力者:日皮会誌. 2015;125(12):2211-2257.
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Choon SE, et al.:Int J Dermatol. 2014;53(6):676-684.
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Umezawa Y, et al.:Arch Dermatol Res. 2003;295(Suppl 1):S43-S54.
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古江増隆総編集:ここまでわかった乾癬の病態と治療. Ⅲ. 悪化誘因・合併症, 東京, 2012, 中山書店, 154-205.
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日本眼科医会ホームページ:目についての健康情報-ぶどう膜炎 なぜ? どうしたらいいの(https://www.gankaikai.or.jp/health/59/index.html)